朝霧にけぶるエンジンの街の城壁を背景に、周りのゴビットやゴースたちにも助けてもらいながら今日の分の木の実採取を進める。ドラメシヤたちの好物も最近ではだいぶ多様になってきて、こうして塔から離れたところで色々な種類を求めなければならなくなってきた。木を揺らして、寝ぼけ眼のホシガリスにごめんねと謝りながら実を分けてもらう。そのまま何本かの木をドラパルトに乗ったまま渡っていき、同じ動作を木の数だけ繰り返す。 収穫の中で一番数がいるモモンは他の品種に比べて実を結ぶ速さが早く、そのまま食べやすい甘さなことも相まって、いつも人にもポケモン達にも競争率が高い。けれど今日は朝早くからこうして見回っているからか、結構な数を取ることができた。大ぶりでつやつやとした桃色が籠の中に並んでいるのは、なかなか気分が上がる。 お菓子用の予備分を含めて十分な量が集まったところで、休憩がてら湖の傍に生えている木の下に腰を下ろす。いくらかの小島が浮くほど大きく、はるか遠くの景色にまで広がっているキバ湖は、お洗濯や飲み水、料理のほか、いつもたくさんお世話になっている。それは私たち以外も同じで、一目では見渡せないほどに長く続く岸辺には、いつも通り様々なポケモン達が憩いや水浴びに訪れているのが見えた。 自分の隣にドラパルト、その奥に木の実籠を落ち着かせて、少しの間湖畔の景色を楽しむ。お昼ご飯の時間には余裕があるから、まだのんびりしていても大丈夫。だからその分お勉強を頑張らなきゃね、と頭の中の真面目な私がつついてきて、鞄の中の本を取り出す。 塔にある堅い表紙の本のどれよりも薄手で軽い本なのに、若干気後れしている自分がいるのがなんとも情けない。それでも意を決して栞を挟んだページと一緒に口を開いて、文面をゆっくり読み進める。 「鍋にまずヨプの実を刻んで入れ、し、しお…?と、やさいを入れて、それから、…、」 未だ少しの人としかお喋りしたことがないけれど、ようやっと自分は現代の言葉を喋るのに慣れてきたように思う。最初はまた怒られてしまうのではないかと思うあまり口がうまく動かなかったけれど、つっかえても優しく促してくれるキバナやカブさんがいてくれたので、最近の私はもう戸惑いのかけらもない。それでも唇は大分迷いがなくなっても、書いてある文章を読むのはまだまだ難しかった。 キバナ曰く、豊富に辞書や古代資料があるけど話せる人は少ない彼の街とは逆に、現代語の資料を私がほとんど持っていなく、それで会話に比べて文語や文字の理解が遅れているのではないか、とのこと。そんなに気にすることじゃないとも言ってくれたけれど、いずれは乗り越えなくてはいけないので、こうして頑張ってみる。 教材は先日ナックルの街を回った時に見繕ってもらった、ガラル家庭料理図鑑と、おとぎ話の絵付きの本。いつかキバナに貸した、古代語で書かれた伝統的なレシピ本の代わりとして。私が料理の際によく見ている本…おそらく書かれた時代から今なお知られているメニューが多く載っていたから伝統的、という名目なのだろう。 新しい真っ白な紙に綴られている二冊はどちらも子供向けのものらしく、難しい言葉はあまり使われていないらしい…けれどなかなかどうして、今の私は苦戦している。ナックルの街の子供たちはみんなこれが読めるのかあ、随分頭がいいなあ、だからキバナみたいな博識な人がいるのかなあ、なんてクエスチョンマークいっぱいの頭の片隅で考える。 おとぎ話の絵本はこの間のボクレー家族とのお茶会の話をした所為か、ゴーストタイプのポケモンが沢山出てくる話もあって、たどたどしくても朗読するとドラパルトはとても喜ぶ。そういえば彼女は元々トレーナーと一緒に旅をしていたし、キバナの言葉もそれなりに分かっている。…普段は私ともお話ししてくれている訳で、一番言葉を知っているのはひょっとすると彼女なのかもしれない。 「…火だ、えっと、火を弱くいれる。入れてから、温かくなってから他の木の実も入れて、しばらくかき混ぜる。次に…、よめない、っいだ!」 思わず悩み顔のまま横で丸くなって寛いでいるドラパルトと何回も目があってしまい、しまいには眉間の皺をクチバシでどつかれた。きっとキバナのフライゴンが、キバナに抗議をしたい時におでこを軽くつつく仕草を真似したのかもしれないけれど、まあるくて柔らかな黄緑色の彼の頭と、尖ったグレーのあなたの頭は攻撃力が違うんだよ、と伝えたい。 恨みがましく涙目になった私ともう一度視線があうと、ドラパルトはやれやれとため息をついて湖の上に飛んで行ってしまった。まだ眠くないのとごねるドラメシヤにするのと同じ、もう勝手にしなさい、だ。 一人にされてしまった私はしょんぼり足を組み直して、大人しく両手で本をかかえて睨めっこしなおす。可愛らしい絵で描かれた子供が、ページを進める度に美味しいものをお鍋いっぱいに作っていくのを見て羨ましくなりながら、その子の仕草に教わるように推測しながら文章を読み進めていく。 知らないことを知れるのは勿論楽しいけれども自然と口がへの字になってしまう私と違って、今日もドラパルトは元気いっぱいだ。彼女が滑るように飛翔した跡は音もなくさざ波が立ち、湖上に浮かび上がるしなやかな体には木漏れ日が透けて、零れた光が水面に揺らめく。珍しいお客さんだ、と顔を出したみずポケモンたちと鼻先を交わして挨拶しながら戯れるその姿は、きっとどんなおとぎ話にも負けないくらい、きれい。 「…、いいなあ、」 言葉が分かるとか、強くてみんなを守れるとか、どこでも自在に飛んでいけるとか。どれが理由ともつかない呟きが自分の唇からこぼれてしまった。きっとドラパルトはドラメシヤたちが巣立っていけば、一人で何処までもゆける。 自由になってほしいし、それを見たいと思う物分かりの良い私と、寂しい、一緒にいてほしいと駄々をこねる私。けれどきっと、どちらも間違いだ。一番優先すべきは彼女の意志なのだから。あわてて頭を振って、自分の心に波立つ小さな波紋から目をそらす。 ふと、すっかり握るだけになって少しシワのよった本の頁に影が落ちる。雲か何かが出てきたのだろうかと後ろを見上げると、近くにキャンプの格好をした男の人が一人立っていた。怪我をしているようには見えないので、単にドラパルトが物珍しくて眺めているのかもしれない。 「こんにちは。きみは、ポケモントレーナー?」 少しばかり目を見開いてじっと湖を見つめていた男の人は、やがてゆっくりとこちらに向き直る。街の路地裏で会った人を彷彿とさせるような、初対面なのに、にこやかな表情を浮かべている。 身を硬くして、ゆっくり鞄と籠を手繰り寄せる。普通の人は自分と他人が出会った時、どんな話をするんだろうと考える。キバナ達を除けば私はほぼ、弱ったり怪我をしているトレーナーとしか話したことしかない。 目の前のそれなりに年長に見える男の人は、こちらの挨拶を待たずに、返して貰ってもいいかな、といきなり主語のない言葉を飛ばしてきた。ああそうだ、知らない人には、こちらの挨拶を待ってくれない人には、現代語を分からないフリをしても良いだろうか。と思いつつも、気になる文言に引っ張られる。 「あのドラパルト、僕のポケモンなんだけど。ずっと前にどっか行っちゃってさ、ほら、胸のところに小さな傷があるだろ?長いこと探してたんだ」 『もしかして…ドラパルトの、元のトレーナーさんですか』 「あー、まいったな違う地方の人か…あのドラパルト、僕の、なの。わかる?君、ボールに入れてないみたいだから、分かってるんだよね。人のだって」 自分と湖のドラパルトを交互に指さして、少し煩わしそうに事のあらましを説明してくる。大嵐の日の雷に驚いてこっちが言うことも聞かずに、一目散に逃げて行った。ドラメシヤ達も母親を追って、みんな散り散りになってしまって、苦労して探していた。いろんな人に強いドラメシヤを譲る約束をしていたから、大変だった。 ドラパルトに聞くまでもなく、ウソだと思った。彼女が使える技の中にはカミナリがある。それを使って私とドラメシヤ達を守ってくれたことも、何度もある。きっと最後の言葉だけが本当なんだろう。強いドラメシヤが望まれた数生まれるまで、卵を産ませ続けようとしたんだろう。 こちらの様子に気づいてとっくに私の影の中に戻ってきているドラパルトに出てこないよう手で制しながら、思わず目の前の人間を睨む。ナックルの街ではあんなに大勢の人がいたのについぞ出会わなかった、"悪い人"。 私に話しかけるためだけに張り付けたらしい笑顔はもう既に引っ込められていて、苛立ちが段々と彼の挙動を大きくさせていく。山も探して野原も探して、どんなに大変だったか、聞きたくもない物語が次々と述べられていく。私にとってはそれ以上に長い道を逃げているドラパルトと、ドラメシヤたちの泣き声にしか聞こえない。 『彼女は、ドラパルトは帰りません。どうして、彼女とドラメシヤを傷つけたんですか、あんなに、あんなに弱って』 「だからさ、わかんないんだよ言ってることが。いいよね引き取っても。あんまりいざこざすると、最近エリア警備がうるさいからさ」 「ドラパルトは帰りたがっていません。…彼女はもう、あなたの元には戻らないと言っています!」 「…なんだって。こっちが下手に出ていれば、…アイツが、ポケモンが喋っただ?出鱈目を!」 突然モンスターボールを目の前に突きつけられ、虹色の光と共に黒々としたアーマーガアが姿を現す。大きな鋭い鳴き声にびっくりして本をとり落としてしまった私を、ドラパルトがどちらも咥え乗せて勢いよく飛び上がる。今にもアーマーガアと男の人に飛び掛かりそうな彼女を押さえて、なんとか見張り塔へ急行してもらう。後ろから咎めるような大きな声が聞こえるが、それが分かるほどの余裕は私にはなかった。 キバナはトレーナー同士目が合えばバトル開始だ、と言っていたけれど、戦わせたくない。あんなに苦しんで、弱って、元気のなくなった子供たちを舐めながら小さく蹲っていたドラパルトに、それを思い出させる人とのバトルなんかさせたくなかった。 ドラメシヤ達と一緒に、急いでどこかへ逃げなくては。キバナのいるナックルシティ?それともカブさんのいるエンジンシティ?ゆっくりならともかく、みんなでお行儀よく揃って飛ぶなんてできない。それに大勢のポケモンで行ってしまったら、それこそ街の人を混乱させてしまう。どこに行けばいい、だれの元に、行けばいい。 未だ竦んで鞄と本を抱きしめることしかできない私と違い、いつもよりもかなり早く飛んで帰ってくれるドラパルトにありがとうとお礼を言って、見えてきた塔の姿に少しだけ心がゆるむ。やっと屋上に降りて一つ息をついたと同時に大きな羽音が迫ってくる振動を感じて、思わず振り向く。曇天を背景に大きな金色の鳥が熱の衝撃を放ちながら、天上に昇っていくのが見えた。 *** 業務がひと段落ついたタイミングで、ナックルジムの先代リーダーが残した紙の資料をひたすらに漁る。 ドラメシヤの不法厳選は中間報告会議を数日前に終え、調査内容は大分規模も様相も変えていた。人口が多い土地の代名詞でもあるメジャージムを抱えた各タウンからは大量の情報がキバナの元に寄せられ、玉石混合ながらも点描がやがて線画となって、2、3人のトレーナーに絞られるまでになっていた。 それ以外に挙げられたトレーナーは全員なんだかんだと足取りと生活の様子が各街に残されていたが、この候補達は手持ちにドラパルトを入れていた経験があり、厳選経験者ながらワイルドエリアや街道での野宿が多く、金銭情報と共に足取りを掴み切れていないというのが、追加調査の一番大きな原因だった。 そのうちの一人の名前を紙面の中に見つけ出し、手早く目を通す。このトレーナーは、ナックルジムでのバトル記録を見つけた時から、最もオレが目をつけていた奴だった。他の二人はミュージシャンやダンサー等の芸事を生業としており、定住せず各地をうろついている事に、個人的にあまり違和感は湧かなかった。 対してこちらのトレーナーはバトルの勝敗に強い拘りがあり、それ自体はまあよくあるが、勝負後に喧嘩になって幾度かリーグから注意を受けていたのが年間ジムチャレンジャー報告書にも残っていた。ある時からドラパルトを主力にし始め、それでいてナックルジム戦で再挑戦に次ぐ再挑戦の上、辛勝したところでジムチャレンジから遠のいている。"もう少し時間が経てばジムバッジ制覇はできそうだが、精神面は甚だ幼く、トーナメント上位に臨むには厳しい実力に見える"と初回バトル時の先代ジムリーダーの辛辣な所感が、リーグに提出するチャレンジャー報告書控えの末尾に手書きで記されている。 極めつけはそこからだいぶ期間をあけて、バトルタワー最初期の挑戦者として残っていたバトルデータ。戦績は特に見るべきものがない程に下位での敗退だったが、ジムチャレンジ時に毎回出していたドラパルトは使われていなかった。そしてタワーが稼働したての頃はオーナーダンデの好意により、オープンキャンペーンと称して今よりも沢山のアイテムを配布していた…言葉を悪くすれば、客寄せのために金になる景品が多かった。 今現在は追加調査を食らったトレーナー三人共々、ワイルドエリアの入退出とポケモンセンター利用履歴がジムリーダーに共有されるようよう臨時の調査網が敷かれている。が、如何せんひとところに留まることのないトレーナー達なので、未だ目立った効果は上げられていない。途端にスピードの緩んだ捜索の行先に、狙いの的はあるものの、他にも手段が、候補がいるんじゃないかという疑念はおそらく、ずっと自分に付いて回るのだろう。なけなしの手段としていつも利用しているSNSでもドラメシヤ関係の目立った情報を探ってはいるが、それこそ有用な情報よりも雑多なコメントの方がはるかに多い。 先ほど見つけた報告書の前後の書類まで一緒くたにまとめて、当時の周辺状況をもっと詳しく当たろうと執務室に戻る。昼休みの終わり時間も迫ってきた所為か、上位ジムトレ達は全員自席に戻ってきていた。 「あ、キバナ様!」 「どうしたヒトミ、救難指示が出たか」 「いえ、緊急ではないのですが、先日宛先を貰ったドラゴンポケだいすきクラブのアカウントに、ドラパルトの記事が出ました。たった今しがたです」 SNSのリンクをつけて返された自分のスマホロトムには、"見張り塔跡地にドラパルトいたwwwこれなんてレア??" なんてふざけたコメントと共に、飛行中のピンボケしたドラパルトの下半身が映っていた。アングル的に見えないのか単に乗っていないのか、の姿はそこには映っていない。騎乗主がいればどんなポケモンでもトレーナーの手持ちとしてすぐに沈静化するはずだが、複数人いるらしい地上のトレーナー達によって連投されるアングル違いのいずれのドラパルトにも、彼女の姿は見えなかった。 紙だらけのアナログ媒体からすっかり意識を戻され、記事の載っている出現情報トピックを急いで追う。思わずボディを乱暴に掴んだロトムから文句の震えが指に伝わってきたが、しばらくは構ってやれない。それ以上に新しい情報はなくトピックの最後に行きついたかと思いきや、光る鳥型のシルエット、おそらくブレイブバードが特攻している瞬間の画像が追加された。翼の先は斜めに見切れているが間違いない、何度も自分が訪れて同じだけ見送りを受けた、見張り塔の先端部。 ほぼ現行の時間のコマ送りのような一連の投稿に、一気に血の気が引いてフライゴン用の手綱をひっ掴んだ自分と、ジム内に救難アラートの警報が鳴り響いたのはどちらが先だったろうか。 "ワイルドエリア警備隊より緊急連絡、見張り塔跡地にて火災発生。近くのトレーナーが瓦礫に巻き込まれ、怪我人発生の模様。管轄エンジンジムに救護及び、避難要請" 「クソッ既に遅かったのかよ…!?ッオレも出る、リョウタ、バトル要員共に同行せよ!ヒトミとレナはジム待機、オレとリョウタの位置情報をエンジン側に通知しておいてくれ。明日の朝会議は出席予定だが、事態により遠隔対応の可能性もある!」 「了解!」 三人分の返事を背中で受け、ジムリーダー専用回線にナックルジムも援護出向することを手短に伝達しながら、最速でワイルドエリア出動の装備を整える。現地の天候はまもなく曇りから雨に変わろうとしていたが、あまり強くなる傾向はなく、懸念とはなり得なさそうだった。 既定の発着エリアに行く時間も惜しく、緊急対応措置に伴いジムスタジアム上空から直接飛行移動に入る。上昇の間にフライゴンとリョウタに指示を出し、最速で見張り塔跡地の方向に身を向ける。 、塔にいるのか、ドラパルトに乗っているのか。ドラメシヤ達と一緒に被害にあっていないか、まさかバトルしているのか。全速力で向かっているから、エンジン側からも救援が行くから、頼むから無事でいてくれ、もしくは不在であってくれ。ドラパルトはそこらの奴とは比べられない高レベルとはいえ、人間は野生ポケモンのように真直ぐな奴ばかりじゃない。奇襲、夜討ち、朝駆け、欲しいものをどうしても手に入れたいと思い込んだ奴は何でもありだ。 彼女の安否と状況の悪さに、眼の奥が開いてカッと熱くなり、心拍が大きく上がっているのを自覚するが、現場に急行することに矛先を向けるしか道はない。未だ現地に到着していない自身のもどかしさと苛立ちを、リーグ側への連絡や投稿画像の見直しと状況の把握、手持ちポケモン達の最終コンディション確認で誤魔化す。 野生ポケモンがブレイブバードのような大技で人工物に突っ込むことは絶対にしない。トレーナーの指示を受けたポケモンの技であることは間違いないだろう。飛行中にもスマホロトムが件のSNS更新を相次いで通知し、横目で流し見る。ホワイトアウト、黒い煙を上げて亀裂を晒す塔のどこかの部分写真、地上で瓦礫と興奮した野生ポケモンから逃げ惑うトレーナー達のブレた動画。しばらく経つとブレイブバードを出したらしいアーマーガアと騎乗トレーナーの近影に投稿メディアの内容が変わっていく。激しい動きにカメラがついて行けずぼやけてはいるものの、つい先ほどまで脳内を占めていた疑惑のトレーナーの顔と見事に一致して、どこまでも後手な自分に大きく舌打ちをする。 断片的な情報だけでまだが被害にあったと確定したわけではないが、何らかの理由で塔が攻撃されているのは間違いない。大量の育ち盛りのドラメシヤを回収しに来たか、少なくとも卵から孵ったばかりの非力な時よりは、それなりに使い様があるレベルにはなっている。それをを害してまで掠め取りに来たのなら…当然許すことなどできようはずもない。 道中で司令塔としてエンジンシティに残っているカブさんから電話が入り、即座に状況を報告し合う。エンジンジムの上位トレーナー達は既に現場に到着し、瓦礫の移動と怪我人の救護を始めていた。彼等からの報告によれば、見張り塔近辺の空中でドラパルトとアーマーガアが激しく交戦しているとのこと、そしてどちらにもトレーナーが騎乗しているとのことだった。片方は例のトレーナー、片方はドラパルトの背にしがみ付いてバトルの体勢は取れていないらしきものの、と特徴は一致していた。災害現場慣れしているジムトレーナーからの正確な情報に、またどちらも大きな怪我はなさそうだというコメントに、事態は好転せずともほんの少しだけ安堵する。 エンジン側は見張り塔と一般トレーナー、街の安全を最優先に。ナックル側は及び交戦相手のトレーナー、ドラメシヤ達の対応を第一に。急ぎの口頭で互いのジムの対応範囲を認識し合って、通信を切る。 眼前にうっすらと黒い煙を上げる見張り塔が姿を現す。途端に暗雲が頭上に広がり大きな雨粒が頬を掠める。後ろに続くリョウタのペリッパーが水を得た水鳥とばかりに楽し気な鳴き声を発する。 エリアの明るさまでもが天候に従い薄暗くなり、これからの事態を暗示している等という陳腐な展開には決してしないことを、ワイルドエリアの自然に誓う。今一度塔に向けての前進指示を出し、それに応じたフライゴンのより鋭い飛翔と途端に強くなる向かい風に、存分に身を晒した。 ―――――――――――――――――――――― ← ▼menu → |